夜の空気が、少しだけ冷たくなり始めていた。
久しぶりに再会した晶子は、昔と変わらない笑顔を見せながらも、その足元だけが妙に印象に残った。
白いリブソックス。
どこか無防備で、それでいて妙に色気を帯びたその姿に、俺は一瞬言葉を失った。
「…久しぶりだね、高ちゃん」
あの頃と同じ呼び方。
だけど、その声には、確かに違う何かが混ざっていた。
結婚して、子どももいる。
それは知っているはずなのに——
なぜか、目の前の晶子は“人妻”としての距離を保とうとしていないように見えた。
座敷に上がった彼女は、靴を脱ぎ、白いソックスのまま足を揃えて座る。
その仕草が、やけに丁寧で。
やけに艶めいて見えた。
「ちゃんと…覚えてる?」
不意にそう言われて、視線が合う。
覚えてるに決まってる。
忘れたことなんて、一度もない。
ただ——
あの頃とは違う。
目の前にいるのは、“誰かの妻”で、“母親”で。
それでもなお、俺のことを“高ちゃん”と呼ぶ女だった。
沈黙が流れる。
その間を埋めるように、晶子はゆっくりと足を崩した。
白ソックスのつま先が、畳の上でわずかに擦れる。
その音だけで、妙に意識が引き寄せられる。
「……ねえ」
小さく、囁くような声。
気づけば、距離はほとんどなくなっていた。
手を伸ばせば届く。
いや——もう、届いていた。
指先が触れる。
ほんの一瞬、晶子の体がわずかに震えた。
それでも、彼女は手を引かなかった。
むしろ——
「……ダメだよね、本当は」
そう言いながらも、目は逸らさない。
その瞳に映っていたのは、拒絶じゃなかった。
覚悟だった。
次の瞬間、俺は晶子を抱き寄せていた。
白ソックスのまま、彼女は抵抗しなかった。
それどころか——
わずかに、身体を預けてきた。
その柔らかさと温もりに、もう後戻りはできないと悟る。
「高ちゃん……」
呼ばれた瞬間、理性が切れた。
もう、止める理由なんてどこにもなかった。
人妻であることも。
過去であることも。
全部、関係なかった。
白ソックスのまま——
晶子は、俺の腕の中で一線を越えた。
彼女は、まだ脱がない――
脱がない理由が、ある。
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