あの夜から、数日が過ぎた。
何もなかったように日常は続いている。
仕事をして、家に帰って、飯を食って、寝る。
ただひとつ違うのは——
頭の中から、晶子が離れないことだった。
白いソックス。
あのときの、わずかな震え。
そして、抵抗しなかったあの瞬間。
——いや、違う。
あれは“抵抗しなかった”んじゃない。
最初から、拒むつもりがなかった。
そう思った瞬間、スマホが震えた。
画面に表示された名前を見て、心臓が跳ねる。
「……晶子」
短いメッセージだった。
——また、会える?
それだけ。
理由も、言い訳も、何もない。
なのに、その一文だけで全部が伝わってくる。
迷う余地なんて、なかった。
再び会った晶子は、あの日と同じだった。
いや——
少しだけ、違った。
服装は変わっている。
髪も、メイクも、いつも通り。
でも、足元だけは変わらない。
白いリブソックス。
それを見た瞬間、確信した。
——ああ、そういうことか。
晶子は、ゆっくりと座る。
そして、俺の視線に気づいているくせに、何も言わない。
むしろ、わずかに足を揃え直した。
見せつけるように。
誘うように。
「……変かな」
そう言って、少しだけ笑う。
その表情に、罪悪感はほとんど残っていなかった。
あるのは——
期待と、熱。
「今日も……そのままなんだな」
思わず口に出すと、晶子は少しだけ視線を落とした。
けど、すぐにまた見上げてくる。
「……うん」
小さく頷いたあと、続ける。
「だって……脱いだら、終わっちゃいそうで」
その言葉に、一瞬息が止まった。
終わる?
何が。
関係が?
気持ちが?
それとも——
「こうしてると……まだ、続いてる気がするの」
晶子は、自分の足元を見つめながらそう言った。
白いソックスのつま先が、わずかに動く。
あの夜の続き。
まだ終わっていない証。
だから——脱がない。
そういうことだった。
気づいたときには、もう距離はなかった。
触れるか、触れないか。
その境界線に、ふたりで立っている。
「高ちゃん……」
呼ばれるだけで、もうダメだった。
手を伸ばす。
晶子は、今度は最初から身体を預けてきた。
迷いなんて、一切ない。
むしろ——
自分から、近づいてくる。
白ソックスのまま。
あの日よりも、ずっと自然に。
ずっと深く。
「……やっぱり、ダメだよね」
そう言いながら、腕を回してくる。
その矛盾が、もう答えだった。
止まる気なんて、ない。
止めてほしくも、ない。
ただ——
続けたいだけ。
この関係を。
この感覚を。
この背徳を。
もう、引き返す理由なんてどこにもなかった。
晶子は、やっぱりソックスを脱がなかった。
あれは、ただの癖なんかじゃない。
“理由”があって、履いている。
そしてその理由は——
もう、俺にもわかり始めていた。
戻れないことは、最初から分かっていたはずなのに。
彼女は、まだ脱がない――
脱がない理由が、ある。
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