第2話|白ソックスを脱がない理由

人妻小説シリーズ

あの夜から、数日が過ぎた。

何もなかったように日常は続いている。
仕事をして、家に帰って、飯を食って、寝る。

ただひとつ違うのは——

頭の中から、晶子が離れないことだった。

白いソックス。
あのときの、わずかな震え。

そして、抵抗しなかったあの瞬間。

——いや、違う。

あれは“抵抗しなかった”んじゃない。

最初から、拒むつもりがなかった。

そう思った瞬間、スマホが震えた。

画面に表示された名前を見て、心臓が跳ねる。

「……晶子」

短いメッセージだった。

——また、会える?

それだけ。

理由も、言い訳も、何もない。

なのに、その一文だけで全部が伝わってくる。

迷う余地なんて、なかった。


再び会った晶子は、あの日と同じだった。

いや——

少しだけ、違った。

服装は変わっている。
髪も、メイクも、いつも通り。

でも、足元だけは変わらない。

白いリブソックス。

それを見た瞬間、確信した。

——ああ、そういうことか。

晶子は、ゆっくりと座る。

そして、俺の視線に気づいているくせに、何も言わない。

むしろ、わずかに足を揃え直した。

見せつけるように。

誘うように。

「……変かな」

そう言って、少しだけ笑う。

その表情に、罪悪感はほとんど残っていなかった。

あるのは——

期待と、熱。

「今日も……そのままなんだな」

思わず口に出すと、晶子は少しだけ視線を落とした。

けど、すぐにまた見上げてくる。

「……うん」

小さく頷いたあと、続ける。

「だって……脱いだら、終わっちゃいそうで」

その言葉に、一瞬息が止まった。

終わる?

何が。

関係が?
気持ちが?

それとも——

「こうしてると……まだ、続いてる気がするの」

晶子は、自分の足元を見つめながらそう言った。

白いソックスのつま先が、わずかに動く。

あの夜の続き。

まだ終わっていない証。

だから——脱がない。

そういうことだった。

気づいたときには、もう距離はなかった。

触れるか、触れないか。

その境界線に、ふたりで立っている。

「高ちゃん……」

呼ばれるだけで、もうダメだった。

手を伸ばす。

晶子は、今度は最初から身体を預けてきた。

迷いなんて、一切ない。

むしろ——

自分から、近づいてくる。

白ソックスのまま。

あの日よりも、ずっと自然に。

ずっと深く。

「……やっぱり、ダメだよね」

そう言いながら、腕を回してくる。

その矛盾が、もう答えだった。

止まる気なんて、ない。

止めてほしくも、ない。

ただ——

続けたいだけ。

この関係を。

この感覚を。

この背徳を。

もう、引き返す理由なんてどこにもなかった。


晶子は、やっぱりソックスを脱がなかった。

あれは、ただの癖なんかじゃない。

“理由”があって、履いている。

そしてその理由は——

もう、俺にもわかり始めていた。

戻れないことは、最初から分かっていたはずなのに。


 

彼女は、まだ脱がない――
脱がない理由が、ある。

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